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札幌高等裁判所函館支部 昭和26年(ナ)1号 判決

原告 桜井義朗

訴訟代理人 臼木豊寿 外一名

被告 北海道選挙管理委員会

訴訟代理人 西村卯 外三名

主文

原告の訴は之を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人等は、昭和二十六年四月三十日執行された北海道知事選挙及び函館市における北海道議会議員選挙は共に無効とする、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、昭和二十六年四月三十日北海道知事選挙と北海道議会議員選挙が同時に行われたが、函館市における右選挙の投票は選挙法規に違反して行われその違反は選挙の結果に異動を及ぼすことが明らかである。即ち(一)右選挙の投票所における投票数はいずれも八万八千百六十一票であるが、函館市の投票管理者は投票所の入場劵所持者を以て直ちに選挙人本人であると即断し、氏名生年月日等を確めてその者が果して選挙人本人であるかどうかを確認する手続をなさずに投票用紙を交付して投票を許した結果右投票数中には多数の選挙人本人によらない投票がある。(二)同市選挙管理委員会委員長は五千名を越える者から投票用紙及び不在者投票用封筒の交付を請求されて之等の者が公職選挙法施行令第五十二条第一項各号の証明書を提出し得るに拘らず之を提出させないで、選挙人自身の「私事旅行中」「老衰歩行困難で医師の証明がない」或は「老年病弱で医師の証明がない」という書面を以て右証明に代る疎明となし、之に対し投票用紙及び不在者投票用封筒を交付したため、之による五千票以上の不在投票があつた。(三)同委員長は千八百七十八名の疾病、負傷、姙娠若しくは不具のため又は産じよくにあるため歩行が著るしく困難であると称する者からその現在場所で投票の記載をするために投票用紙及び不在者投票用封筒の交付請求を受けた際、その請求者がそれらの不在者投票をしようとする者と親族であることの身分関係を証明させることなくその請求者に之を交付して投票をなさしめた。右はいずれも選挙法規に違反し、之による投票は無効である。よつて選挙人である原告は被告に対して異議の申立をしたところ被告は之を却下し、該決定は同年七月二十五日原告に送達されたので、ここに請求の趣旨通りの判決を求めると述べ、被告の抗弁に対し、原告が昭和二十六年五月十四日函館市選挙管理委員会に対し異議の申立をなしたところ却下され、法定期間経過後の同年六月四日被告に対し異議の申立をしたことは認めるが、函館市選挙管理委員会は自己に管轄権がないとして却下すべきでなく被告に移送すべきものであり、仮にそうでないとしても、函館市選挙管理委員会は原告の異議申立を受理した後同年六月二日に管轄権なしとして却下したため原告は法定期間内に被告に対して異議の申立をすることができず同月四日に之をなすに至つた事情があるので、右は訴願法第八條第三項の宥恕すべき事由ある場合に該当し被告に対する異議の申立は適法であるから本訴も適法であると陳述し、証拠として甲第一乃至第五号証第六号証の一乃至第百六十九第七号証の一乃至二百五十九第八、九号証の各一乃至百四十一第十号証の一乃至百三十七第十一号証の一乃至三百二十二第十二号証の一乃至三百四十六第十三号証の一乃至三百八十九第十四号証の一乃至二百二十六第十五号証の一乃至二百三十八第十六号証の一乃至六十五第十七号証の一乃至二百三十八第十八号証の一乃至百三十三第十九号証の一乃至六十一第二十号証の一乃至百六十五第二十一号証の一乃至二百八十第二十二号証の一乃至百九十第二十三号証の一乃至八十八第二十四、二十五号証の各一乃至百四十三第二十六号証の一乃至七十二第二十七号証の一乃至百四十二第二十八号証の一、二、三第二十九号証の一乃至四第三十号証の一、二、三を提出し、甲第六号証以下の疏明書は選挙終了後函館市選挙管理委員会において殆んど全部にわたりその事由を変造したものであると述べた。

被告訴訟代理人等は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、まず本案前の抗弁として、原告主張の選挙に関する異議の申立は選挙が施行された昭和二十六年四月三十日より二週間以内の同年五月十四日までに被告に対して之をなさねばならないのに、原告は誤つて同日函館市選挙管理委員会に対して異議の申立をなし、後同年六月四日被告に対し之をなしたもので右は法定期間経過後の申立であるから被告が不適法として之を却下したのは相当であり、従つて本訴は不適法として却下すべきであると述べ、原告の再抗弁に対し、相手方を誤つて函館市選挙管理委員会に異議申立書が提出された場合に同委員会から被告に之を移送する規定はない、又公職選挙法第二百十六条によつて訴願法適用の限界が定められてあり同法第八条の適用は除外されているから右再抗弁は失当であると附陳し、本案につき原告の主張事実中北海道知事及び道会議員選挙が原告主張の日に行われたこと及びその主張する数の投票所における投票及び不在投票があつたことは認めるが、函館市の投票管理者及び選挙管理委員会委員長が原告の主張するような違法な取扱をしたことは知らない、その余の事実は否認すると述べ、甲号各証の成立を認め、甲第六号証以下の疏明書の事由を函館市選挙管理委員会が変造したとのことは否認すると陳述した。

理由

まづ本件訴の適否につき判断する。昭和二十六年四月三十日に北海道知事選挙と北海道議会議員選挙が同時に行われたことは当事者間に争がない。従つて右選挙の効力に関し異議がある選挙人又は公職の候補者は右選挙の日から十四日以内即ち同年五月十四日までに到達するように右選挙に関する事務を管理する被告に対して異議の申立をしなければならない。然るに原告は右期間経過後である同年六月四日被告に対して異議の申立をしたことは当事者間に争のないところである。原告は右異議の申立を法定期間内である同年五月十四日函館市選挙管理委員会に対してなしたところ同委員会は之を却下したが右は違法であつて被告に移送すべきものであると主張し、原告が異議の申立を右法定期間内に函館市選挙管理委員会になしたことは当事者間に争がないけれども、この場合同委員会において之を被告に移送すべき規定なく又移送すべきものとも考えられないので、函館市選挙管理委員会に異議の申立をしたことを以て被告に之をなしたと同様の効力があるものと認めることはできない。又原告は法定期間内に右委員会に対し異議の申立をしたのに、同委員会は之を受理した後六月二日に之を却下したため法定期間内に被告に対して異議の申立をすることができなかつたのであるから、右は訴願法第八条第三項にいわゆる宥恕すべき事由ある場合に該当し適法であると主張するけれども訴願法第八条は公職選挙法第二百十六条の規定の趣旨に照しても同法に適用がないことが明らかであり、異議申立についての同一趣旨の自治法第二五六条第四項も同選挙法には適用されていないから右主張は採用できない。従つて原告が被告に対してなした右異議の申立は法定期間経過後のものであるため不適法として却下せられるべきものであるから被告が之を却下したのは相当であり右のように訴訟の前提要件たる異議の申立が不適法である以上本訴も結局不適法とならざるを得ない。

よつてその余の争点につき判断するまでもなく原告の本訴請求は不適法として之を却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判長判事 原和雄 判事 井上正弘 判事 長友文士)

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